【第1章】2 安全管理者の役割と職務③
2-3 安全管理者の具体的職務と法的根拠②
以上は法律でしたが、労働安全衛生規則には以下の規定があります。
【労働安全衛生規則】
(安全管理者の巡視及び権限の付与)
第六条安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
2事業者は、安全管理者に対し、安全に関する措置をなし得る権限を与えなければならない。
ここでは、安全管理者の業務をより具体的に示していますが、解釈するうえでいくつか留意点があります。
・まず主語が「安全管理者」になっていることです。安衛法関連の条文のほとんどは「事業者」が主語になっていますが、この条文ではあえて「安全管理者」に直接求めています。
・衛生管理者にも同様の巡視規定がありますが、そちらは「少なくとも毎週一回」と頻度を規定しています。安全管理者に頻度の規定が無いのは、前述の定員同様事業者に委ねているということですので、適切な頻度を決定することが必要になります。
・第2項の「措置をなし得る権限を与える」とは、ただ辞令を交付したり社内で公表すれば足りるということではなく、事業場の全員が安全管理者の職務内容を知り、その措置に協力し、場合によっては指示に従うことが求められているということです。
以上が法と規則に規定される安全管理者の業務ですが、さらに具体的な内容が通達により示されています。
この通達は、昭和47(1972)年10月に労働安全衛生法と同時に施行された労働安全衛生規則に関して、事前に労働省労働基準局長から各都道府県労働局長あてに出された行政通達であり、内容は各条文の解釈や注意点などになっています。
【労働安全衛生規則の施行について
(昭和四七年九月一八日付、基発第六〇一号の一)】
5 第六条関係
(1) 第一項の「その危険を防止するために必要な措置」とは、その権限内においてただちに所要の是正措置を講ずるほか、事業者等に報告してその指示を受けることをいうものであること。
(2) 第二項の「安全に関する措置」とは、法第一一条第一項の規定により安全管理者が行なうべき措置をいい、具体的には、次のごとき事項を指すものであること。
イ 建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適当な防止の措置(設備新設時、新生産方式採用時等における安全面からの検討を含む。)
ロ 安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検および整備
ハ 作業の安全についての教育および訓練
ニ 発生した災害原因の調査および対策の検討
ホ 消防および避難の訓練
ヘ 作業主任者その他安全に関する補助者の監督
ト 安全に関する資料の作成、しゆう集および重要事項の記録
チ その事業の労働者が行なう作業が他の事業の労働者が行なう作業と同一の場所において行なわれる場合における安全に関し、必要な措置
(1)は巡視時の危険防止措置について、全て権限内で即時実施できるとは限らないため、そういった場合の対処方法を解説したものです。
(2)は安全管理者がなすべき具体的措置がより詳細に示されています。これら8項目及び安衛則第3条の2の3項目が前述の「安全に係る技術的事項」の具体的内容であり、安衛則第6条の巡視とともに安全管理者の職務の基本的事項となっています。
1)建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適当な防止の措置(設備新設時、新生産方式採用時等における安全面からの検討を含む。)
→事業場における各種の危険を発見し、災害の発生を未然に防ぐための手段を講じることが求められています。安衛則第6条に定められている安全管理者による巡視は一つの方法であり、その際直接作業者に注意を与えたり、場合によっては作業方法の変更や作業中止を命じることも考えられますので、「措置をなしうる権限」が必要となる訳です。
なお、巡視による方法以外にも、作業現場の監督者や作業者にヒヤリハット事象を報告させ必要に応じて対処するなど、種々の方法を講じて事業場の危険を把握し対処することも望まれます。
また、機械設備の更新時や作業方法の変更に当たっての検討(=リスクアセスメント)なども求められています。
2)安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検および整備
→安全点検は「基準から外れた状態」を発見し早期に正常な状態に戻すために実施します。
まず、対象となる安全装置・保護具などの範囲を定め、定期点検の頻度、点検担当者の選任方法を定めるとともに、チェックリストを作成し点検を実施します。実施後は内容によって必要な整備等を速やかに行います。
チェックリストの欠点として、基準が曖昧となりやすく点検者の主観によって結果が違う場合があることが挙げられますが、それ以前の問題として点検業務自体がおざなりになり勝ちなことがあります。
従って、注意したい点として以下のことが挙げられます。
・事業場内で点検の重要性について共通認識を持つこと
・点検者は対象物の構造や使用方法を熟知していること
・現在使用しているチェックリストの範囲・項目を確認し、必要により修正すること(又は新規に作成すること)
・可能な限り正常な状態及び許容範囲等を数値化すること
・整備についてもルール化しておくこと(点検者が即時対応可能なもの、事業場内で修理等できるもの、その他のものなどに分類し、それぞれ速やかに対応できるようにしておく)
※ 巻末に以下の資料を掲載。
安全管理者はあくまで「管理者」ですので、例えば点検・整備を直接実施しなければならない、ということではありません。(もちろん自ら実施しても構いませんが)
安全教育等、他の項目についても同様です。
3)作業の安全についての教育および訓練
※詳細については第3章参照
4)発生した災害原因の調査および対策の検討
※詳細については第1章第5節参照
5)消防および避難の訓練
→消防法上の防火管理者や消防計画の有無を確認し、消防計画が定められている場合はその内容に労働者保護も配慮されていることを確認し、必要であれば修正し実施します。
(この場合、安全管理者として安衛法に基づき別に訓練を実施しなければならない、ということではありません)
消防計画等が無い場合は主に消火・非難・通報の各訓練を計画し、実施します。
なお、参考資料として消防署や自治体で作成された各種通報・消火・避難に関する「訓練実施マニュアル」等が、各Webサイトに掲載されています。
また、消防設備の定期点検実施についての確認や、想定される避難通路上の物品等の有無や施錠状態なども、定期的に確認しておきます。
6)作業主任者その他安全に関する補助者の監督
→「監督」とは組織の目的や基準(ルール・法令など)に沿って業務を遂行しているかどうかを「見張り」、必要な「指示」を行うことです。この場合、その対象者となるのは安衛法第14条に定める各種作業主任者をはじめ、職長等の作業者を直接指揮監督する者、その他安全管理者の業務の補助者(例えば点検担当者や教育担当者、事務補助者等)などです。
それらの人達に任されている安全に関する業務が、定められた通り適切に実施されているかどうかを確認し、必要があれば指導や助言又は適切な指示を行います。
7) 安全に関する資料の作成、しゆう集および重要事項の記録
→「安全に関する資料」について狭義に捉えれば「安全管理者の職務遂行上必要な資料」となり、広義には「事業所の安全管理上必要な資料」と考えられます。
これらの資料を作成するにあたっては、法令・通達等の根拠や基準を確認する必要があるものも多いと考えられますが、その場合は以下のWebサイトなどを参照してください。
・労働安全衛生関係法令、通達等検索
「安全衛生情報センター」
「厚生労働省トップ」メニュー→所管の法令等のうち「所管の法令、告示・通達等」→「法令検索」又は「通知検索」→「第5編 労働基準」→「第3章 安全衛生」
・労働災害統計その他の情報
「職場のあんぜんサイト」
「安全衛生情報センター」
「重要事項の記録」については、点検や教育記録・安全委員会議事録など法令で記録を義務付けられているものや、選任義務規定があるものに関する選任記録(作業主任者や作業指揮者の選任等)など法令上の措置義務の履行記録など、広範にわたりますが、要は安全管理者の職務に関連し必要な事項を記録し、また、その種類ごとに年限を決めて保存することが大切です。
8) その事業の労働者が行なう作業が他の事業の労働者が行なう作業と同一の場所において行なわれる場合における安全に関し、必要な措置
→この項目はいわゆる「業務請負(構内下請け)」を対象としており、元方事業者(元請け)の事業場で、関係請負人(下請け)の労働者と元方の労働者が一緒に作業(混在作業)する場合の労働災害の発生を防止するという目的があります。
法律用語
「元請け(事業者)」 → 「元方事業者」
(当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者)
「下請け(事業者)」 → 「関係請負人」
(当該請負契約のうちの元方事業者を除くすべての請負契約の当事者である請負人)
その為の「必要な措置」に関しては、平成18(2006)年「製造業(造船業を除く。)における元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針」中に具体的な項目が示されています。
(「3 総合的な安全衛生管理の進め方」を参照)
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