労働安全衛生法とは
(以下文中の略称について、「安衛法」は「労働安全衛生法」を、「安衛令」は「労働安全衛生法施行令」を、「安衛則」は「労働安全衛生規則」を示しています。)
成立の背景
労働安全衛生関連の規定については、昭和22年の新憲法制定に合わせて整備された一連の法令の中で、「労働基準法」第五章(第42条から第55条まで)に14条分が盛り込まれるなどの対応がなされました。
その後これを基に例えば昭和35年10月施行の「(旧)有機溶剤中毒予防規則」など適宜関連規則等が整備されましたが、高度経済成長期を迎えたわが国では多くの大規模工事や生産技術の革新による労働環境の変化も相まって、毎年6,000人を超える労働災害死亡者が発生するという最悪の状況を迎えます。
昭和44年、当時の労働省の方々が中心となり、専門家を交えて労働安全衛生法令の整備に取り組み、昭和46年の通常国会に提出され翌47年可決成立した法案が、現在に至る「労働安全衛生法」です。
法の目的
労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康を確保」するとともに、「快適な職場環境を形成する」目的で制定された法律です。
また、その手段として「労働災害の防止のための危害防止基準の確立」、「責任体制の明確化」、「自主的活動の促進の措置」など総合的、計画的な安全衛生対策を推進するとしています。
組織とスタッフ
職場の安全と衛生を確保するための役割を担うスタッフを配置することが、作業内容や現場の規模によってそれぞれ定められています。
配置が義務付けられているのは、総括安全衛生管理者、産業医、安全管理者・衛生管理者・安全衛生推進者、衛生推進者、作業主任者などのスタッフと安全委員会・衛生委員会の設置です。
事業者が措置を講ずべき危険又は有害物等
事業者が講じなければならない措置の対象となる危険などが定められています。
- 機械や設備による危険
- 爆発物・発火物等による危険
- 電気・熱その他のエネルギーによる危険
- 採石や荷役などの業務における作業方法による危険
- 墜落や土砂等の崩壊による危険
- ガスや粉じん、放射線や振動などによる健康障害
- 精密工作などの作業方法による健康障害
- 労働者の作業行動から生ずる労働災害
- 窮迫した危険に対する退避措置
リスクアセスメント
平成18年の法改正で「危険性又は有害性の調査及び調査の結果に基づき講ずべき措置」が事業者の努力義務として導入されました。
これは、個々の事業者の責任に於いて危険性・有害性に対して措置基準を設け、「災害の未然防止」を自主的に図る手法として取り入れられ、「先取りの安全」「災害ゼロからリスクゼロへ」といったスローガンで推進され、従来からある労働災害の発生状況に応じて抑止策を制度化していく手法と合わせ、一定の効果を上げています。
元方事業者の責務
安全衛生法の義務主体は基本的に当該労働者を使用する事業者とされていますが、事業が請負契約に基づきなされる場合においては、事業者の措置義務以外にも、労働災害の発生を防止するため特に元方事業者(=請負契約のうち最も先次の請負契約における注文者)に対し一定の義務規定が設けられています。
- 下請業者に対しての遵法指導及び法令違反に対する是正指示。(全業種対象)
- 土砂等が崩壊する恐れがある場所での作業等、危険作業における技術上の指導その他必要な措置。(建設業)
- 協議組織の設置運営等、混在作業によって生ずる労働災害の防止措置。
(特定元方事業者=建設業・造船業~第30条、及び製造業~第30条の2)
※「混在作業」=特定元方事業者の労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われること。 - 一定のずい道工事等安衛令第9条の2に規定する仕事が混在作業で行われる場合の、必要な機械の備付け等、救護に関する必要な措置。(建設業)
注文者の責務
- 建設物・設備・原材料を請負人の労働者に使用させる場合の労働災害を防止するための、安衛則第644条から第662条までの措置等必要な措置。(建設業・造船業)
- 安全衛生関連法令の規定に違反することとなる指示の禁止(全業種)
労働者への安全衛生教育
労働安全衛生法では労働者の健康や安全を確保するため、安全衛生教育の実施を事業者に義務付けています。これもやはり過去の労働災害に学び、再発を防止する観点から制度化されているものです。
- 労働災害防止業務従事者能力向上教育(法第19条の2第1項)
- 雇入れ時の安全衛生教育(法第59条第1項)
- 作業内容変更時の安全衛生教育(法第59条第2項)
- 危険有害業務に対する特別教育(法第59条第3項)
- 新任職長等に対する安全衛生教育(法第60条)
- 危険有害業務に現に就いている者への安全衛生教育(法第60条の2第1項)
資格が無いと就けない業務の指定
過去の災害事例などから判断し、クレーンの運転その他の一定業務については免許あるいは技能講習等の資格を有する者以外の者を当該業務に就かせることを禁止(=「就業禁止」)しています。
労働者の健康保持
労働安全衛生法では第1条の目的にあるように、安全確保だけでなく労働者の健康を守るため、各種検査等必要な措置の実施を事業者に義務づけています。
- 有害物質を扱う作業現場など、健康を害するおそれのある作業環境の管理として「作業環境測定」及び必要な改善措置の実施
- 労働者の健康に留意した作業方法の管理や作業時間の基準に関する管理
- 定期的な各種健康診断の実施
- 健康診断結果による労働者の健康保持のために必要な措置についての医師からの意見聴取
- 健康診断結果による就業場所の変更その他労働者の健康保持のため必要な措置の実施
快適な職場環境を整える
事業者は、労働者に快適に働いてもらうための環境を整えるよう努めなければいけません。
これらの具体的な内容は厚生労働省が公表する「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」にならい、疲労やストレスが生じにくい職場環境の整備が必要です。
【労働安全衛生法の内容】
【1】労働安全衛生法の基本
◆労働安全衛生法の基本- 労働者、事業者、事業場とは
- 労働災害防止計画とは
【2】安全衛生管理体制
◆安全衛生管理体制について 1- 安全衛生管理体制とは
- 安全衛生管理体制におけるそれぞれの役割
- 設置が義務付けられている委員会とその役割
◆安全衛生管理体制について 2
- 元方事業者が講ずべき措置について
- 特定業種における元請と下請の労働者が混在する事業場について(統括安全衛生管理)
【3】危険防止と安全衛生教育
◆危険防止について 1- 危険防止に関して全ての事業者が講ずべき措置
- その他危険防止に関する事業者の義務
- 元方事業者が講ずべき措置について
- 機械などに関する規制
◆危険防止について 2
- 危険物・有害物に関する規制
- 安全衛生教育など就業に当たって必要な措置
【4】心身の健康
◆心身の健康について- 作業環境管理/作業管理
- 健康管理、健康の保持増進
- 快適な職場環境形成のための措置
【5】その他
◆その他、免許や罰則などについて- 就業制限業務と免許及び技能講習
- 安全衛生の改善措置
- 監督など
- その他
- 罰則など
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