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【第2章】第4節 電気使用設備②

1.交流アーク溶接機(2)

【災害事例】鋼製スロープの製作中に溶接棒が横腹に接触、感電し死亡

(業種:その他の金属製品製造業、事業場規模:5~15人、被災:死亡者1名)


①発生状況

この災害は、鋼製スロープ製作中に溶接棒により感電したものである。

この会社は、建築用鉄骨の製造加工および建築現場での組立等を行っており、被災者は4名いる溶接工のうちの一人である。

当日の作業は、フェリーに車を乗降させるためのタラップに取り付ける鋼製スロープを工場内で組立製作するものであった。通常は4日程かかる作業をフェリーが入港する予定に合わせるため2日半で作業を行うことになり、被災者達は残業して今日中に完成するよう社長から指示された。

法律・政令・省令

そこで、各作業者は、設計者から渡された図面に基づいてそれぞれの作業を開始した。被災者は経験が浅いので日中は他の溶接工に付いて鉄骨に組立用の穴を開ける作業を行っていた。

午後6時から1時間休憩して夕食を取ったのち作業を再開し、被災者は引き続き同僚溶接工に付いてスロープの仮溶接作業に従事した。しかし途中で当同僚溶接工が別のスロープの組立作業に移ったので、被災者は一人で溶接作業を行っていた。

午後10時20分頃、当同僚溶接工が被災者から5mほど離れた場所で作業をしていたところ被災者の「すみません」という声が聞こえたので振り返ってみた。すると被災者が鋼製スロープの内側でうつ伏せに倒れていたので直ぐに駆けつけ背中に触れたところ「ピリッ」と感じた。

そこで、当同僚溶接工は、同僚に溶接機の電源を切るよう指示し、その後数人で被災者をスロープの外側に引き出して救急車で病院に移送したが、2時間後に死亡した。

なお、当日(7月中旬)は蒸し暑かったので、被災者が着用していたTシャツ、作業ズボンは相当濡れており、皮手袋も湿っていた。


②原因

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1 溶接棒が右横腹に触れたこと

被害者の身体には、右腹部に約1cmの火傷の痕、首の左側から顎にかけて火傷の痕が認められ、その傍には溶接棒を挟んだままの溶接棒ホルダーが置かれていた。従ってアーク溶接中または溶接棒ホルダーを持って鉄骨で組み立てられたスロープの中を移動中に、溶接棒の先端が右横腹に触れ、そこから電流が入って鉄骨に接触していた首部分に抜けたものと考えられる。

2 自動電撃防止装置を使用していなかったこと

被災者が使用していたアーク溶接機(一次電圧は200V、二次無負荷電圧は85V、二次電流は500A)は、昭和49年製で溶接機の前面には「交流アーク溶接機には、2次無負荷電圧による作業者の感電事故防止のため、労働安全衛生法により電撃防止器を併用するよう定められております」と表示されていたが、自動電撃防止装置は取り付けられていなかった。

また、溶接機のアース線は、溶接機を載せてある作業用の鉄製のステージに取り付けられており、そのステージは接地されていた。

なお、付近には2台の新しい溶接機が設置されていて、自動電撃防止装置は取り付けられてはいたが、仮付け溶接のときなどには電源がすぐ切断され作業がやり難いという理由でその機能が働かないようにして使用していた。

3 作業場所が非常に狭かったこと

目撃者はいないが被災者は、スロープの組立て手順としてまず外枠部分を組立て、その後に構造物の内部の溶接を行おうとしたものと思われる。その場所は高さが50~60cm、幅が130cmの程度の狭い場所であったため溶接棒が身体に接触したものと推定される。

4 蒸し暑い環境等であったこと

被災したのは深夜にかかる時刻であったが、当日は蒸し暑く被災者のTシャツは汗で濡れていた。

また、被災者の当日の勤務時間は、朝から14時間にも及んでいたため、かなりの疲労が蓄積されていて動作が緩慢になっていたことも考えられる。


③対策

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 自動電撃防止装置を使用すること

次のような感電の危険がある場所で交流アーク溶接を行わせるときには、必ず自動電撃防止装置を使用させる。(安衛則第332条)

(1)船舶の二重底若しくはピークタンクの内部

(2)ボイラーの胴若しくはドームの内部等で著しく狭隘な場所

(3)墜落の危険がある高さが2m以上の場所

また、その日の作業開始前に、自動電撃防止装置の作動状態を確認する。(安衛則第352条)

なお、自動電撃防止装置は、厚生労働大臣の登録を受けた検定機関の型式検定に合格した物を使用しなければならない。(安衛法第44条の2・令第14条の2第9号)

2 作業計画を適切に定めること

交流アーク溶接作業においては、溶接棒あるいは絶縁部の破損した溶接棒ホルダーに接触することによる感電の危険性がある。使用するアーク溶接機の機能、溶接棒ホルダーおよびケーブルの絶縁部の状態、安全装置である自動電撃防止装置の取り付けと機能の確認等を作業開始前に行ったうえで、無理のない適切な作業計画を作成し作業者に指示する。(点検について安衛則第352条)

3 安全管理を十分に行うこと

交流アーク溶接機を用いて行う金属の溶接・溶断等の作業を行う者については、あらかじめ作業に伴う危険性等について特別の教育を実施する。(安衛則第36条第3号)

また、特別教育を受けた溶接工であっても作業性等を理由に取り付けてある自動電撃防止装置の機能が働かないようにして使用することも少なくない。作業の責任者は、その日の作業開始前打ち合わせ等の機会に正常な使用について明確に指示するとともに、随時に作業現場を巡回して作業の実態を確認し必要な指導等を行う。

 

 

 

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