【第3章】2 安全教育の方法②
2-3 教え方
人にものを教えるということが容易ではないということは、未だにオールマイティーな教え方というものが存在しないことからも明らかです。一方、これまでに様々な研究がなされ、いくつかのセオリーがあることがわかっています。
1) 講義方式と討議方式
集合教育の進め方を大きく分けると講義方式と討議方式があります。近年の研究では、問題解決学習、体験学習、グループディスカッション、グループワーク等受講者参加型の教育方式(いわゆるアクティブ・ラーニング)の方が学習成果を上げやすいとされています。
画一的な知識の詰込みではなく、講師と受講者あるいは受講者同士のコミュニケーションを通じて、知識や体験の共有・さまざまな気づきが期待されます。一方、次のような欠点も知っておく必要があります。
・講義方式に比較すると準備を含め時間が掛かる
・グループによって成果や消費時間にばらつきが生じる
・講義方式以上に講師(ファシリテーター)の力量に左右される
・最初に失敗すると次回から敬遠されやすい
従って、一般に講義と討議を併用して実施されることが多いようです。なお、職長教育については通達により討議方式を原則とするよう定められています。
2) 個別指導
集合教育以外に、主に新規採用者が現場に配置されたときなどに行われる個別教育(指導)もあります。なかでも現場で作業をしながら行う教育法はOJT(OntheJobTraining)と呼ばれ、受講者が仕事をする中で必要な知識や技能を指導者から直接学ぶものであり、教育効果が高いとされています。指導者にとっても自身の指導能力を知り、さらに能力を磨いていく機会にもなります。
個別指導は、新規採用者への教育以外にも新たな機械設備の導入の際や、作業手順の変更などにあたって実施することがあります。対象が経験豊富な作業者の場合には、その経験を尊重し意見を聴くなど自主的な発想を育てるような工夫も必要です。
また、集団方式の欠点である受講者ごとの理解のばらつきを補い、個別の問題点を発見し修正していくことによって、より理解を深めることも期待されます。
3) 指導案、タイムスケジュール
法定講習の時間割は4時間程度のものから、実技を含め20時間を超えるようなものまであります。それぞれに科目の範囲と時間の指定もあり、テキストを頼りに適当に進めていったのではなかなか思うような教育が出来ません。
そこで、予め指導案やタイムスケジュールを作成し、教える内容ごとに要点をまとめ、講義やグループワークの時間配分、使用教材やテキストのページ番号などを表にまとめておきます。
それでもなかなか予定通りにはいきませんが、本来の教育内容から大きく外れることを防ぎ、次回以降の改善にも役立ちます。
一番学ぶのは担当者(講師)自身
「教えること=学ぶこと」
4) 4段階法と8原則
各種教育に共通のものとして教え方の4段階法と8原則があります。
4段階法は一般に作業の教え方のセオリーとされており、特に実技教育の際に有効とされています。
8原則は文字通り人にものを教える時の原則です。教育の対象者は年齢・性別・性格・知識・経験などが人によって違い、反応も様々なので、これで絶対うまくいくとは限りませんが、確かにこれらの原則に反すれば失敗するようです。心しておくべき原則と考えられます。
5) 視聴覚教材等の活用
「百聞は一見に如かず」ということで、教育の際にテキストに加えてプレゼンテーションソフトや動画教材を使用することが一般的になっています。
プレゼンテーションソフトは凝ったものであればあるほど往々にして作成者の自己満足で終わりがちです。本当に大事な点やどうしても印象に残したい事柄に絞ったり、考えてもらう場面で使用するなど、受ける側の立場に立った配慮が必要です。
活字離れが進む昨今、動画教材は必要不可欠とも考えられますし、労働安全衛生分野の市販の教材もかつての見ていると眠くなるようなお堅いものとは違い、随分わかりやすく見せるための工夫が凝らされたものになっています。
また、インターネット上で自由に活用できるものも公開されています。例として厚労省の「職場のあんぜん」サイトがあります。「教材・資料」の中で動画教材も公表されています。災害事例や労働災害統計もありますので、社内教育に是非活用したいサイトです。
ただし、動画について視聴後訊いてみると、ストーリーは憶えているがポイントは誰も答えられなかったということが起こりがちです。事前に「どう行動に活かすか」を念頭に視聴することを促すとともに、必ず視聴後のポイントについてまとめるなどのフォローが必要です。
6) インターネットを活用した教育
令和2年に発生した新型コロナウイルス感染症の対策として、在宅勤務(テレワーク)が普及したこともあり、インターネットを活用した各種教育が求められるようになりました。
このことに関しては、令和3年1月25日付け厚労省通達「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」により、一定の条件下で法定教育についても実施可能であることが示されています。
この場合、「教育時間が法令で定める教育時間以上であることを、教育を実施する者が担保する必要があること」「実技による教育又は実地による研修が必要なものについては、講師と同一場所で対面により実施すること」等の各種条件規定を遵守し、実施後は必要事項を記録しておきます。
なお、外部の講習団体等に実施を委託する場合についても、受講後条件違反により無効とされるおそれがあるため、上記通達に反していないことを充分確認する必要があります。
7) 納得と共感
「人は理論・理屈を理解し、納得しても共感しないと動かない」・・
教育や学びといったテーマでもよく言われることです。基準や法規を一方的に伝えることは簡単なことですが、だからといって受入れ、守ってくれるかどうかは別問題だということです。
ある災害防止団体の研修に「教育技法」という教科があり、最後のまとめとして出てきたテーマは「伝える側の思い」ということの重要性についてでした。
指導者や講師の安全衛生、つまりは受講者一人ひとりへの「こうあって(なって)ほしい、という思い」というものは、あらゆる技法に勝るということです。このことは教育を企画したり担当する際に心しておきたいことです。
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