【第2章】1 リスクアセスメント⑦
1-3 リスクアセスメントの進め方 実務手順(3)
(3) 優先度の設定およびリスク低減措置の検討
指針
10 リスク低減措置の検討及び実施
(1)事業者は、法令に定められた事項がある場合にはそれを必ず実施するとともに、次に掲げる優先順位でリスク低減措置内容を検討の上、実施するものとする。
ア 危険な作業の廃止・変更等、設計や計画の段階から労働者の就業に係る危険性又は有害性を除去又は低減する措置
イ インターロック、局所排気装置等の設置等の工学的対策
ウ マニュアルの整備等の管理的対策
エ 個人用保護具の使用
最優先:法令に定められた事項の遵守
特定した危険性又は有害性について、労働安全衛生法及び関係法令に定めがある場合は当然遵守しなければなりません。
例えば右の図で段差が2m以上の場合、安衛則第519条の規定の対象となります。
【安衛則第519条】
(開口部等の囲い等)
第五百十九条 事業者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、囲い、手すり、覆(おお)い等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
優先順位① 設計や計画の段階における対策
施行通達
10 リスク低減措置の検討及び実施について
(1)指針の10(1)の事項については、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の10(1)アの「危険性又は有害性を除去又は低減する措置」とは、危険な作業の廃止・変更、より危険性又は有害性の低い材料への代替、より安全な反応過程への変更、より安全な施工方法への変更等、設計や計画の段階から危険性又は有害性を除去又は低減する措置をいうものであること。
危険源と人が接近することによりリスクが生じますが、作業の中から危険源そのものを無くしたり、危険源と人との距離を物理的に遠ざけることが出来れば、リスクを小さくしたり無くすことが出来るということで、望ましい対処方法です。
【例】
・物の運搬を自動化する
・塗料を有機溶剤を含まないものにする
・梯子を使用して昇降していたところに階段を設置する
・事業所内で作っていた揚げ物を外注にする
・移動手段を車から電車にする
一方、今までのやり方を変えることには設備・材料などの変更や新たな作業手順の作成・教育といった相応の投資が必要となる場合が多く、事業者の安全化への積極的な判断が望まれるところです。
優先順位② 工学的対策
施行通達
イ 指針の10(1)イの「工学的対策」とは、アの措置により除去しきれなかった危険性又は有害性に対し、ガード、インターロック、安全装置、局所排気装置の設置等の措置を実施するものであること。
基本的に作業のやり方は従来通りですが、「設備」側の自動停止機能などによる安全化や、カバーなどで人と危険源の接近・接触を防ぐなど、言わば「モノ(保護具は除く)」によりリスクを減らす手法です。「人の行動に依存しない」ところが特徴的です。
発生した労働災害の9割以上に「人の不安全行動」が見受けられるということですので、人が間違ったことをしても被害が発生しないようにしておく、という「本質安全化」の考え方を取り入れた対策が望まれます。
【例】
・転落墜落防止のため防護柵を設ける
・危険個所に人が侵入したときに機械の動きを自動的に止めるシステムを採用する
・刃物や回転体と人が接触しないようにカバーを付ける
・物の素材を変更して激突時等の衝撃を緩和する
・物の突起や隙間を減らす
なお、「リスクの低減」とは「可能性」と「重篤度」のいずれかまたは両方を減らすということです。
優先順位③ 管理的対策
施行通達
ウ 指針の10(1)ウの「管理的対策」とは、ア及びイの措置により除去しきれなかった危険性又は有害性に対し、マニュアルの整備、立入禁止措置、ばく露管理、警報の運用、二人組制の採用、教育訓練、健康管理等の作業者等を管理することによる対策を実施するものであること。
「管理的対策」が「工学的対策」と対照的なのは、「人に依存する対策」「人の行動に期待する対策」である点です。
【例】
・立入禁止措置(ロープやパイロンなどによる)
・看板や音声による危険の周知や行動制限
・作業手順や作業マニュアルの作成
・安全ルール(通行区分、一旦停止、指差し呼称など)の作成
・安全教育
どんなに優れたルールであっても、それを守らない人や知らない人にとっては意味がありません。従って、ベースとなる各種の安全教育の実施や管理監督者による適切な指導は欠かせません。
優先順位④ 個人用保護具の使用
施行通達
エ 指針の10(1)エの「個人用保護具の使用」は、アからウまでの措置により除去されなかった危険性又は有害性に対して、呼吸用保護具や保護衣等の使用を義務づけるものであること。また、この措置により、アからウまでの措置の代替を図ってはならないこと。
①~③の対策を検討したうえで充分なリスク低減が出来ないと判断した場合に、初めて個人用の保護具の使用をすべきものであり、最初から「保護具ありき」ではリスクアセスメントの意味がありません。
サーカスの空中ブランコや綱渡りなら「危険」が売り物ですからある程度のリスクはやむを得ないとしても、一般の作業者は知恵や体力・技術で仕事をしているわけで、リスクを売り物にしているのではありません。
ですから、まず「保護具を使わないでもよい方法」を考えるべき、ということです。
ポイント
職長など危険性又は有害性等の特定・見積り・評価の実務担当者は、各種(各段階)の対策案について検討し、可能なものを全て記載・報告する。
安全管理者などの管理者は実務担当者に対し必要な助言や教育を実施し、報告の内容を検討したうえで総括安全衛生管理者等意思決定権者に報告して判断を仰ぐ。
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