化学物質に関する法規制と「SDS」
化学物質(※1)は洗剤や接着剤、塗料や食品など、私たちの身の回りの非常に多くの品々に直接又は間接的に使用されており、現代生活に無くてはならないものとなっています。また、その種類は現在厚労省が名称を公表しているものだけでも6万6千種類余り、世界中では1億を超える化学物質の存在が認識されており、さらに年々その数は増えています。
一方、わが国では昭和40年代の工場の廃液などによる公害問題や、最近では印刷工場での胆管がん発症にみられるような化学物質による事件や事故、それに伴う健康障害などの人的被害も数多く発生しています。
このような化学物質によるリスクを大別すると、製品などを通して一般人の健康に与える影響、製造や工事などで直接取り扱う労働者に与える影響、そして環境に与える影響の三点があげられますが、これらに対する国の対策の基本部分は経済産業省、一般の消費者や労働者に係わる部分は厚生労働省、環境に係わる部分は環境省が、それぞれ連絡調整しながら担当しています。
参考 省別化学物質関連サイト
経済産業省
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/index.html
厚生労働省 健康・医療
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/seikatu/kagaku/
厚生労働省 労働安全衛生
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei03.html
環 境 省
http://www.env.go.jp/chemi/
このうち労働分野では平成24年に表面化した印刷工場の事例で、のちに胆管がん発症の原因物質の一つとされた「1,2-ジクロロプロパン」が、その時点では労働安全衛生法関連の規制対象物となっておらず(平成25年10月1日より「特定化学物質」に指定)、また、胆管がん自体も化学物質によって発生する恐れがある職業がんとして想定されていませんでした。
化学物質は多種多様な業種・業務で使用され、しかも年々増え続けていますが、この事例は最先端の労働現場の危険有害リスクを、法規制によって事前回避することの困難さを、改めて浮き彫りにしました。
これらのことを踏まえ、労働安全衛生分野において国(厚生労働省)は従来からの実施措置に加え、平成25年以降順次化学物質に関する制度の見直しを図っていますが、そのうち主なものは以下のとおりです。
1.化学物質の有害性に関する国内法規基準と国際基準の整合性を図る
化学物質に関する有害性のリスク評価は医学的な知見などにより年々変化 しており、国際的にはそのつど有害ランクの見直しが図られているため、それらの情報を基に国内基準の見直しが図られました。例えば従来は「有機溶剤」に指定されていた「スチレン」など10種類の化学物質が、職業がん発生の恐れがあるとのリスク評価により「特定化学物質」に指定替えとなり、平成26年11月1日より管理の強化が実施されました。
参考:平成26年11月の特定化学物質障害予防規則・作業環境測定基準等の改正
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000057700.html
2.表示義務対象物の拡大(ラベル)
実際に化学物質を取り扱う労働者にその危険性又は有害性を確実に認識してもらうため、従来から容器又は包装に名称などの事項を表示することが義務付けられていましたが、平成28年6月1日よりその範囲がそれまでの111物質から労働安全衛生法施行令別表9などに定める物質(平成29年4月1日現在670物質)に拡大されました。
3.化学物質の危険性又は有害性の調査等の義務化(リスクアセスメント)
2.の表示義務のある化学物質(平成29年4月1日現在670物質)について、平成28年6月1日より事業者によるリスクアセスメントの実施が義務付けられました。
参考:労働安全衛生法の改正について(ラベル・リスクアセスメント関係)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000094015.html
これらの制度改正で特徴的なことは、従来の法規制制度に加えラベル表示範囲の拡大やリスクアセスメントを義務化することによって、事業者による自主的な労働災害(健康障害)防止措置の充実を図ろうとしている点にあります。 そして、そのためには対象となる化学物質に関する正確な情報を把握することが不可欠であり、それを記載しているのが「SDS」です。
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